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「鈍行乗り継ぎ湯けむり紀行」(5)

(月刊『旅』1994年6月号 所収)

“温泉都市”鹿児島
 門司港駅から日豊本線の鈍行列車に乗り継いで西鹿児島に到着すると、駅近くの「みどり旅館」に宿をとった。1泊3000円(素泊まり)という安宿だ。

 鹿児島ではまず城山に登る。鹿児島の市街地にせり出したシラス台地の先端、高さ108メートルの小山が城山だ。展望台に立つと、町の騒音が、まるで劇場の天井桟敷で聞くどよめきのように、緑濃い山肌を這い上がってくる。

 足元の、天文館、いづろ通り、朝日通りとつづく繁華街にはビルが建ち並び、その向こうの錦江湾には、桜島がどっしりと横たわっている。桜島からは、いつもどおりに、噴煙が空高く舞い上がっている。そんな城山からの展望を目の底に焼きつけたところで、鹿児島温泉の温泉めぐりを開始した。

「さー、鹿児島温泉のハシゴだ!」
 と、気合いを入れて、西鹿児島駅周辺の公衆温泉浴場めぐりを開始する。

 短時間で何湯もの温泉を“はしご湯”するときは、腹にグッと力を入れ、自分自身でほんとうにやる気にならないと、なかなかできないもの。この、気合の入れ方が足りないと、途中でいやになってしまう。

 最初は甲突川にかかる石橋の西田橋を渡ったところにある「西田温泉」。熱湯、温湯の2つの湯船につかったあと、サウナに入る。玉のような汗をドクドク流したところで、水風呂に飛び込む。このときの、心臓がキューンと縮む感じがたまらない。

 次に「霧島温泉」。
 3番目は「薬師温泉」。ここの「スーパーラジアントサウナ」はスグレもの。100度前後の高温サウナではなく、50度前後の低温サウナなのにもかかわらず、ドバドバーッと汗が吹き出してくる。高温サウナに長く入っているのには忍耐が必要だが、この低温サウナだと、忍耐はまったく必要なし。
 ここまでが鹿児島温泉の前半戦になる。

 夕食にはライスつきの鹿児島ラーメンの大盛りを食べ、後半戦では「丸善温泉」「みずほ温泉」「宝の湯温泉」「荒田温泉」「南開温泉」の5湯に入った。
 前後半戦合わせて、鹿児島温泉では8湯に入った。


九州最南端の開聞温泉
 西鹿児島駅からは、鹿児島本線で門司港駅に向かう前に、指宿枕崎線で薩摩半島の南端まで行く。一番列車の発車時刻が早いので、起床は4時30分。眠い目をこすりながら5時13分発の指宿行きに乗る。

 5両編成のジーゼルカー。列車はガラガラのまま6時22分、指宿に到着。それでも5両なのは、折り返しの列車が鹿児島への通勤・通学列車になるからだろう。

 指宿発6時35分の枕崎行きに乗り換え、山川を通り、6時51分、夜明けの日本最南端駅、西大山駅に到着。降りた乗客はぼく1人だけだ。西大山駅は田園地帯の中にポツンとある無人駅で、寂しさが漂っている。ホームの端に「北緯31度11分、日本最南端の駅」と書かれた木標が立っている。

 西大山駅を出発点にして徒歩のみで薩摩半島南端の温泉めぐりをする。
 最初は川尻温泉。西大山駅のま南にある温泉だ。畑の中の道を歩く。左手に見える大隅半島の山々から朝日が昇る。右手の開聞岳が朝日を浴びて徐々に赤く染まってくる。正面には東シナ海。目に焼きつくような夜明けの風景。薩摩富士の開聞岳は標高922メートルだが、海岸からいきなりスーッとそそり立っているので、数字以上の高さに見える。

 西大山駅から30分ほど歩くと、海辺の温泉の川尻温泉だ。
「この時間だと、まずいかな……」
 と思いつつも、一軒宿の「かいもん荘」で入浴を頼む。

 すると、フロントの若い女性は一瞬、困ったな……といった顔をしたが、ぼくの無理を聞いてくれた。入浴料は300円。ザーッ、ザーッと寄せては返す波の音を聞きながらつかる湯の気分は最高。塩分の濃い、黄土色をした湯。

 薩摩半島の最初の温泉にうまく入ることができて、意気揚々とした気分で薩摩半島最南端の長崎鼻に向かって歩いていく。天気は快晴。ほほをなでる風がやさしい。春というよりも、初夏を思わせた。

 長崎鼻への道の途中にある開聞温泉は、九州最南端の温泉。JR九州バス「開聞温泉」バス停から50メートルほど小道を入ったところに公衆温泉浴場がある。が、オープンは9時から。なんとしても九州最南端の温泉には入りたいし、かといって1時間も待てないしと困っているところに、公衆温泉浴場のオバチャンがやってきた。

 事情を話すと、
「ちょっと待っていなさいね」
 といって、すばやく男湯の掃除を終えると、湯船にドーッと湯を入れはじめる。
「さー、入りなさい」
 ありがたい。

 湯船の中で、バサバサ湯をかぶり、寝湯を楽しむ。湯は川尻温泉ほどは塩辛くない。こうして、九州最南端の湯を存分に味わった。

 この湯は、とにかく湯ざめをしないということで、湯のよさにひかれ、この地方の温泉の本場、指宿の人たちもよく入りにくるという。

 湯から出、入浴料の150円を払おうとすると、“開聞温泉のオバチャン”は、まだ湯が溜っていないから10円でいいという。10円では申し訳なさすぎるので50円玉を渡した。 お礼をいって出発しようとすると、冷たいコーヒー牛乳を飲ませてくれるし、地元で穫れたポンカンも持ってきてくれる。胸がジーンとしてしまう。

 温泉はドラマだ。温泉を切り口にして日本を歩きまわっていると、このようにいろいろな人たちに出会うことができる。温泉に入ることによって日本を知ることができるし、日本人を知ることができる。それが“温泉はしご旅”の最大の魅力なのである。

 ところで、こうして“九州本土最南端の温泉”に入ると、種子島や屋久島、トカラ列島から沖縄本島へ、さらには八重山諸島へと、さらなる南の島々にも行ってみたくなる。

 だが、そんな気持ちをグッと押さえ、
「また、次の機会だな」
 と、自分で自分にそういい聞かせるのだった。


「山川は、ウナギよ!」
 薩摩半島最南端の長崎鼻は、観光客でにぎわっていた。台湾からの観光客が多いのには驚かされた。さすがに九州、台湾が近い。

 長崎鼻からは、伏目天然砂蒸し温泉に寄って山川駅まで歩くことにする。かなりの距離になるので、早足に歩く。その途中にある浜児ヶ水温泉に立ち寄ってみる。浜児ヶ水の集落のはずれに共同浴場があるだけの温泉。だが、残念ながら入浴時間は15時30分から。湯船の湯は落としてあるので入れなかった。

 長崎鼻から1時間以上かけて歩いた山川町営の伏目天然砂蒸し温泉も、残念無念……。前日、海が大荒れに荒れ、海岸にある砂湯は波をかぶり、今日は入れないというのだ。

 冗談じゃないよ、長崎鼻から必死になって歩いてきたのに……といったぼくの不満そうな表情を見てとった職員は、特別に、ということで、同じく町営の宿泊施設「ヘルシービレッジ」の湯にタダで入れさせてくれた。チョコレート色をした塩辛い湯。それで我慢し、山川駅に向かった。

 山川駅到着は11時30分。昭和35年に枕崎線が開通するまでは、日本の最南端駅だった。

 駅近くの成川温泉の公衆温泉浴場「ますだ温泉」(入浴料200円)の湯に入る。明るく広々とした大浴場。ほかに入浴客もいないので、誰に気兼ねもなく、体を思いっきり伸ばして湯につかった。無色透明の湯だが、若干、塩味がする。湯から上がると、近くの食堂で定番メニュー、ラーメンライスの昼食にする。

 食べながら話した店のオバチャンに、
「アナタねー、山川は、ウナギよ!」
 といわれてしまった。
 鰻温泉に入らないことには、山川の温泉に入ったことにはならないというのだ。

“山川の食堂のオバチャン”の一言で、メラメラッと闘志が燃え上がり、制限時間120分で鰻温泉の往復をすることにした。といっても、往路はずっと登りがつづくのでキツイ。登山マラソンをするようなものだ。1時間かけてたどり着いた鰻温泉は、神秘的な鰻池の湖畔にある温泉。共同浴場(入浴料120円)の湯に入る。地元の人にいわせると、この湯は万病に効くとのことで、湯治に来る人が多いという。

 鰻温泉でぼくの目を引きつけたのは、民家の庭の片すみにある“スメ”。“天然蒸気カマド”といったらいいだろうか。吹き上げる蒸気を炊事に使う。サツマイモやトウモロコシを蒸したり、壺で湯をわかし、野菜をゆでたりする。見事な生活の知恵。光熱費ゼロの天然炊事道具なのである。

 鰻温泉から山川駅までの復路は下りなので楽。おまけに近道を教えてもらったので、13時59分発の列車には余裕を持って間に合った。


「西鹿児島―熊本」間の温泉めぐり
 指宿周辺の温泉はパスし、15時06分に西鹿児島に戻ってきた。
「さー、鹿児島本線だー!」
 と、15時20分発の熊本行き、3両編成の電車に乗り込む。

 鹿児島本線は、日豊本線に較べるとはるかに本数が多いので、“鈍行乗り継ぎ”での温泉のはしごはきわめてやりやすい。それと、日豊本線沿いの温泉は数が限られてしまうが、鹿児島本線沿いには点々とあるので、“温泉はしご旅”をよけいにやりやすいものにしている。

 鹿児島本線「鹿児島―熊本」間の第1湯目は、湯之元駅で下車する湯之元温泉。駅から徒歩10分ほどで温泉街。ここでは“特殊公衆温泉浴場”の看板を掲げた「だるま湯」に入った。

“特殊”なんていうからには、キレイなお姉さんが……と、一瞬そんな想像もした。

 しかし、入浴料500円でキレイなお姉さんがいるはずがないと強く打ち消し、フロントで借りたキーで、その番号の浴室に入っていく。すると、なんということはない、いくつかに仕切られた、1時間500円の貸し切り制の浴室だった。

 第2湯目は市来駅で下車する市来温泉。駅から徒歩20分、一軒宿の国民宿舎「吹上浜荘」の大浴場に入る。国民宿舎特有の設備の整った大浴場で、気分よく湯につかった。そのあとで、日本有数の砂丘がつづく吹上浜に出、夕日に染まる東シナ海を眺めた。

「あの夕日の向こうは、揚子江の河口だ」
 と思うと、胸がジーンとしてしまう。
 ぼくは、どこに行っても、さらにその向こうの世界へと、気持ちが飛んでいってしまうのだ。

 川内到着は18時02分。ここが第3湯目の川内市街地温泉。なぜ“市街地”がつくのかというと、川内駅の4つ先、西方駅から山中に入ったところに川内温泉があるからだ。

 川内駅から徒歩1分の駅前温泉ホテルの「川内ホテル」に泊まる。“鈍行乗り継ぎ”の泊まりには絶好の温泉だ。ここの公衆温泉浴場(入浴料250円。6時~23時30分。泊り客はもちろん無料)の湯に入り、ホテル直営のレストランで「さつま定食」の夕食にする。大根おろしを添えたさつま揚げと地鶏の刺身、ゴボウとコンニャクの入った牛肉の煮つけ、それと海草料理。さすがに本場のさつま揚げはひと味違う。

 これで駅前温泉「川内ホテル」の宿泊料金は5500円(1泊2食つき)。九州の温泉宿は、本州よりもかなり安くなるが、それにしても「川内ホテル」の宿泊料金は安かった。このような駅前温泉ホテルや旅館がたくさんあれば、どれだけ鈍行乗り継ぎの温泉めぐりの旅がしやすくなることか…。

 翌朝は、いつもどおりの一番列車で出発。川内発5時54分の熊本行きに乗り、阿久根で下車。駅から夜明けの道を10分ほど歩き、第4湯目の阿久根温泉では公衆温泉浴場「ふれあい温泉ぽんたん湯」に入る。営業時間は午前6時から午後10時30分までで、このような朝早くから夜遅くまでやっている公衆温泉浴場というのはありがたい。

 温泉は塩分の濃い湯。湯船には、ザボン(ブンタン)がプカプカ浮いている。そのほかにも真水を湧かした湯や露天風呂、サウナ、水風呂があって、280円の入浴料は安い。

 第5湯目は水俣駅で下車する湯ノ児温泉。ここでは勝負した。
 水俣到着は8時18分。9時57分発で水俣を発とうと思っていたので、鹿児島の鰻温泉の時と同じように走る。だが、ここもきつい。一番近い国民宿舎「水天荘」を目指したが、いったん峠に登り、そこからさらに稜線を走る。

 そのかわり、息を切らしてたどり着いた「水天荘」(入浴料300円)の大浴場はすばらしかった。展望抜群。湯につかりながら眼下に浮かぶ天草の島々を眺める。湯から上がると、すぐさま水俣駅に向かって山を駆け下り、9時57分の列車に間に合わせるのだった。

 第6湯目は湯浦駅で下車する湯浦温泉。ここは楽だ。徒歩5分と駅に近いので、町営の「温泉センター」(入浴料170円)と民営の「岩の湯」(入浴料170円)の、2つの公衆温泉浴場の湯に入った。無色透明の湯には、肌にうすい膜が張るようなぬめりがあった。

 第7湯目は日奈久駅で下車する日奈久温泉。駅から徒歩10分。鹿児島本線沿いでは最大の温泉地。ここでは、“日奈久温泉発祥の地”碑が立っている「温泉センター」(入浴料100円)に入った。湯上りに、日奈久名産のチクワを駅前の店で買い、駅の待合室でカンビールをキューッと飲みながら食べた。
「クワーッ、ウマイ!」
 と、思わずそんな言葉が出たほど。2本で140円。カソリの日奈久おすすめの味だ。

 こうして西鹿児島駅から8本の鈍行列車に乗り継ぎながら7湯の温泉に入り、熊本に着いた。水俣の湯ノ児温泉を除けば、駅で降り、温泉につかり、次の列車に乗る……と、そのくり返しができる「鹿児島―熊本」間の“温泉はしご旅”であった。


地獄温泉の混浴露天風呂
 舞台を鹿児島本線からいったん阿蘇に移す。熊本から豊肥本線に乗り換え立野へ。阿蘇の外輪山のスイッチバックで知られる立野で南阿蘇鉄道に乗り換え、阿蘇下田で下車。そこに“豪州軍団”の目木正さんと吉松久雄さんが車で迎えにきてくれていた。

“豪州軍団”というのは、1993年7月、東京・目黒の旅行社「道祖神」主催の“カソリと走ろう!”というバイクツアーで、オーストラリアの荒野を4000キロ走り抜け、大陸中央部にそびえる世界最大の一枚岩の岩山エアーズロックまで行った仲間たちなのだ。そのうちの西日本勢が、地獄温泉のキャンプ場に集まった。

 温泉旅館「清風荘」のバンガローが会場で、6畳の畳敷きになっている。メンバーはさきほどの2人のほかに、熊本市内の病院に勤務する美人看護婦の錦戸陽子さんと、鹿児島の大学生の吉川克寿さん。錦戸さんがせっせと料理の腕を振う。熊本の名物料理、団子汁もつくってくれる。ビールで乾杯。飲みながらオーストラリアの思い出話に花が咲かせた。

 さんざん飲んで騒いだあとは、全員で混浴の露天風呂「すずめの湯」に入りにいく。裸電球の灯る夜の露天風呂は風情がある。湯は粘土を溶かしたようなねずみ色をしている。入ってしまえば見えないということもあって女性の入浴客も多い。

“豪州軍団”の男どもは、錦戸さんを囲むようにして入る。彼女のすぐ隣りの特等席はカソリが独占。狭い湯船なので、時々、彼女の肌と触れてしまうが、それがたまらない。

 翌日、もう1日、阿蘇をまわるという“豪州軍団”の面々に別れを告げ、地獄温泉を歩いて下る。寂しい別れだったが、その寂しさを振り切るかのように温泉に入りまくる。

 地獄温泉からわずかに下った垂玉温泉「山口旅館」(入浴料600円)の露天風呂「滝の湯」に入る。「滝の湯」は、その名前どおりに、湯につかりながら、目の前の滝を眺められる露天風呂だ。

 垂玉温泉からは、南阿蘇鉄道の阿蘇下田城ふれあい温泉駅まで下る。そこには駅舎に温泉。阿蘇下田温泉(入浴料300円)とでもしておこう。JR北上線のほっとゆだ駅のようなもので、これからも日本各地にこのような“駅舎温泉”がどんどんできたらいいと思うし、きっと、増えていくことだろう。

 阿蘇下田駅から南阿蘇鉄道に乗る。立野方向に1駅、次の長陽で下車。国道325号を立野方向に歩き、栃木温泉の「荒牧旅館」(入浴料400円)の湯に入る。総ガラス張りの大浴場からは、阿蘇の外輪山を間近に眺める。つづいてそこから坂道を登り、栃木原温泉の「いろは館」(入浴料500円)の湯に入る。「いろは館」の湯も、「荒巻旅館」に負けず劣らずの大浴場。

 最後に長陽村営の「温泉センター・ウィナス」(入浴料400円)の湯に入った。長陽温泉とでもしておこう。大変な人気で、押すな押すなの人出。子供たちが大騒ぎをしていた。後ろ髪をひかれるような思いで阿蘇に別れを告げ、立野駅まで歩き、14時36分発の豊肥本線・熊本行き列車に乗るのだった。


さらば、温泉天国の九州よ!
 熊本到着は15時26分。すぐさま鹿児島本線に乗り換え、「熊本―博多」間の“温泉はしご旅”を開始する。
「熊本ー博多」間の第1湯目は玉名温泉。ここで1晩泊まるつもりにしていたので、16時30分に玉名駅に着くと、『全国温泉宿泊情報』(JTB刊)を見ながら宿に電話を入れる。だがどこも満員。何かの大会がこの町で開かれているようだ。さらに電話帳を見ながら全部で10軒以上の宿に電話したが、やはり満員なのだ。ガックリ……。
 宿はどうしても温泉にこだわりたかった。

 どこに泊まるか、決められないまま、とりあえず玉名温泉に入ろうと、徒歩20分ほどの市営公衆温泉浴場(入浴料200円)に行く。ところがここでとんでもないミスをやらかしてしまった。つい、うっかりと、女湯の方に入ってしまったのだ。

 夕暮れ時で、けっこうな数の入浴客。一番手前にいたのは、下着を脱ぎかけていた若い女性。彼女は大きく目を見開いた、ビックリしたような表情でぼくを見る。あやうく叫び声を上げられるところだった。あわてて戸を閉めたが、今、目の前で起きた出来事が、自分でも信じられなかった。

 いい訳をするつもりはないが、この市営公衆温泉浴場の「男湯」と「女湯」はともに黒い字で書かれ、のれんも似たようなものなのだ。おまけにぼくは宿を決められず、そのことで頭がいっぱいという事情というか背景があった。

 ところが、この“つい、うっかり”は、時間がたつにつれてうれしさに変わり、湯(彼女の下着姿ばかりが目にこびりつき、どのような湯だったのか、まったく思い出せない)から上がり、市営公衆温泉浴場から駅に向かって歩くころには、どうしても口もとがほころんでしまう。彼女の下着姿、ビックリした表情がくり返し目に浮かんでくる。

“玉名温泉の彼女”、ほんとうにゴメンナサイ!

 気持が明るくなると、いいことが起きるのは、間違いのない“人間の法則”。玉名駅に戻り、福岡県側の新船小屋温泉に電話すると「船小屋別荘」が宿泊OK。夕食も用意してくれるという。

 浮き浮きした気分で18時04分発の列車で玉名を出発し、熊本県から福岡県に入り、18時46分船小屋着。夜道を歩く。船小屋温泉を通り過ぎ、矢部川を渡り、駅から歩いて30分ほどで第2湯目、新船小屋温泉の「船小屋別荘」に到着。すぐさま湯に入る。湯から上がると夕食が用意されている。刺身、焼魚、酢のもの、鶏の唐掲げ、鍋もの……とボリュームたっぷり。ツクシの和えものが季節を感じさせてくれた。

 翌朝は、船小屋温泉に立ち寄っていくつもりなので、宿でゆっくり朝食を食べてから出発。第3湯目の船小屋温泉では「船小屋観光ホテル」(入浴料600円)のジャングル温泉に入った。亜熱帯樹がおい茂り、枝を広げている浴場だ。

 9時39分発の列車で船小屋を出発。久留米を過ぎ、筑後川の鉄橋を渡ると、背振山地の山々がはっきりと見えてくる。10時11分基山着。第4湯目の基山温泉は駅から徒歩10分。真言宗の法泉寺という寺の境内にある温泉で、公衆温泉浴場「基山ラジウム温泉」(入浴料300円)の湯に入った。このあたりには、温泉があんまりないこともあって、けっこうなにぎわいをみせていた。

 10時58分基山発の電車に乗り、11時06分、二日市着。第5湯目の二日市温泉では、道をはさんで向かい合っている2つの公衆温泉浴場、「博多湯」(入浴料100円)、「御前湯」(入浴料200円)の2湯に入った。「御前湯」は100円高い分だけ、広い湯船で、ゆったりした気分で湯につかることができた。

「御前湯」を出た時は、胸にぽっかりと穴が穴があいたような気分に襲われる。
「あー、終わってしまったなあ……」

 二日市温泉が「九州一周」の最後の温泉。「日豊本線篇」で17湯、この「鹿児島本線篇」で24湯と、合計41湯の温泉に入った。
 それぞれの温泉でのシーンを振り返りながら、「九州はたいへんな温泉天国だなあ」と思うのだ。

 博多で降りて博多ラーメンを食べたあと、門司港駅へ。九州にやって来た時とは逆に、関門連絡船で下関の唐戸に渡る。あっというまに九州の山並みは遠ざかり、海峡の向こう側になってしまう。
「さらば、九州よ!」
 おもいっきり心の中でそう叫ぶ。

 唐戸から下関駅まで歩き、16時40分下関始発の寝台特急「あさかぜ2号」で東京に戻るのだった。

◇◇◇
今回、入った温泉
1、鹿児島温泉(鹿児島県)
2、川尻温泉(鹿児島県)
3、開聞温泉(鹿児島県)
4、伏目温泉(鹿児島県)
5、成川温泉(鹿児島県)
6、鰻温泉(鹿児島県)
7、湯之本温泉(鹿児島県)
8、市来温泉(鹿児島県)
9、川内駅前温泉(鹿児島県)
10、阿久根温泉(鹿児島県)
11、湯ノ児温泉(熊本県)
12、湯浦温泉(熊本県)
13、日奈久温泉(熊本県)
14、地獄温泉(熊本県)
15、垂玉温泉(熊本県)
16、阿蘇下田温泉(熊本県)
17、栃木温泉(熊本県)
18、栃木原温泉(熊本県)
19、長陽温泉(熊本県)
20、玉名温泉(熊本県)
21、新船小屋温泉(福岡県)
22、船小屋温泉(福岡県)
23、基山温泉(福岡県)
24、二日市温泉(福岡県)

テーマ : 鉄道の旅
ジャンル : 旅行

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