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六大陸周遊1973-74 [完全版] 009

「アギン、バグース!」

 9月5日午後1時過ぎ、「ガディス・コモド号」は雑貨を積み、帆を上げ、サペ港を出港した。時間どおりの出港だったのでびっくりした。フローレス島のラブハンバジョ港(ラブハンは港の意味)までは約100キロの距離。サペ港に近いラメレ村に寄って水を積み込み、スンバワ島を離れていく。
 とはいっても風が弱く、なかなか思いどおりには進まない。ところが夕方になると風が強くなり、帆をいっぱいにふくらませ、帆船はぐっと速力を上げた。真っ赤な太陽が水平線のかなたに沈む。水色の空はみるみるうちに紺青色に変わり、やがて空一面にきらめく星空になった。「ガディス・コモド号」は星を目印にして暗い海を進んだ。浅瀬に来たところで、帆を下ろし、錨を下ろした。
「セラマッ・マラン(おやすみなさい)」
 乗組員はみんな思い思いの格好をして、狭いスペースの中で寝る。ぼくも体をエビのように曲げ、窮屈な格好でシュラフに入って寝た。船のまわりの海では、夜光虫がキラキラ光っていた。
 翌朝はまだ暗いうちに帆を張り、錨を上げて出発する。
 夜が明けると、すぐ近くにスギヤン島(*サンギアン島?)が見え、アピ山(1949m)という火山(アピは火を意味する)がツーンと尖ってそびえていた。小さな島なので、アピ山は標高1949メートルという数字以上の高さに見えた。船のすぐそばに30頭あまりのイルカの大群がやってきた。イルカたちはピョコーン、ピョコーンと飛び跳ねながら船のあとをついてくる。
 だが、そのような快適な船旅も朝のうちだけだった。
 日が高くなるにつれて風はやむ。帆はダラーンとたれ下がり、船はピタッと止まってしまった。やりきれないほどの暑さ。海面には波ひとつない。鏡のようなトローンとした海だった。
 退屈まぎれにパダハラン老人にインドネシア語を習う。
「サトゥ、ドゥア、ティガ、アンパット、リマ…」
 と、1から10までを繰り返し繰り返し、何度も口に出していう。
 1から10までの授業が終わると、パダハラン老人は今度は目を指して「マタ」、耳を引っ張って「テリガー」、口を指さし「ムールット」、口をあけ歯を見せながら「ギーギー」、頭をたたいて「ケパラ」、髪を引っ張って「ラムット」…と教えてくれた。それらをノートに書き、やはり何度も声を出して繰り返した。
 パダハラン老人は日本の歌も知っていた。太平洋戦争中に日本兵に歌わされたという。
「みよ とうかいの そらあけて…」
「しろじに あかく ひのまる そめて…」
「まもるもせめるも くろがねの…」
 と、なつかしさをにじませて海に向かって歌うのだ。
 頭上にあった太陽はいつしか水平線に近づき、暑さは幾分やわらいでくる。そのうちに待ちに待った風が吹いてきた。その瞬間、乗組員の顔に生気がよみがえり、
「アギン(風だ)、バグース(いいぞ)!」
 と、手をたたいて喜び合う。
 ダラーンと下がっていた帆は、みるみるうちに膨らんでいく。それとともに船は心地よい風を切って進みはじめる。
 コモドオオトカゲで知られるコモド島がはっきりと見えてくる。山がちな島。山肌にはほとんど緑が見られない。乾燥した島の風景だ。
 コモド島に沿って進んでいるときのことだった。船尾で釣り糸を流していたパダハラン老人は、突然、「ベサール(大きいぞ)!」と叫んで糸をたぐり寄せる。最初は信じられなかった。というのは、釣り糸に釣り針をつけただけのもので、餌もつけていなかったからだ。釣り糸は引っ張られて今にも切れそうだったが、パダハラン老人は「大丈夫。これは日本製だから」と自信満々だ。
 パダハラン老人は魚との格闘の末に、ついに5、60センチもある大物を釣り上げた。それをナイフ1本であっという間にバラバラにしてしまう。鮮やかな手さばきだ。魚料理の夕食はうまかった。それまでの赤米混じりのポロポロ飯と魚の干物、イモという決まりきった食事にいささかうんざりしていただけに、新鮮な魚の味は格別だった。
 夕日がコモド島の山の端に落ちていく。すばらしい夕焼け。空も海も燃えている。目をこらし、我を忘れて自然の織りなすショーに見入った。だが熱帯の華やかな夕焼けは、あっという間に色あせてしまう。そのあとには、夕空に星が2つ、3つと輝きを見せるのだった。
 こうして翌日も、翌々日もまったく同じような1日が過ぎていく。朝のうちは風が吹いて船は順調に進むのだが、昼近くなると、船はピタッと止まってしまう。そして夕方になると風がまた吹きはじめるのだった。
 スンバワ島のサペから、わずか100キロの距離に4日もかかって、「ガディス・コモド号」はフローレス島西端のラブハンバジョ港に着いた。パダハラン老人と3人の乗組員と、何度も握手をかわして船を降りた。

テーマ : ツーリング
ジャンル : 車・バイク

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