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六大陸周遊1973-74 [完全版] 026

ブラドと走った2200キロ

 チャーターズタワーの町を過ぎると、交通量はガクッと減った。ときどき、思い出したように車が通るが、乗せてくれない。ヒッチハイクのきわめて難しい内陸部に入ったのだ。シドニーからずっと楽なヒッチハイクをしつづけてきたので、それがこたえた。
 日が高くなるにつれて、厳しい暑さになる。太陽が頭上に来るころは、まともに直射日光を浴びつづけているので、頭が割れるように痛む。日射病にかかったかのような辛さ。「地獄のあとは天国」。これは旅の法則だ。苦しんだかいがあり、午後になると、オンボロ車が停まってくれた。オイルがもるような車なので、どうせ近くまでだろうとタカをくくっていたら、なんと2200キロ先のキャサリンまで行くという。あのウォールさん一家と出会ったキャサリンだ。2200キロというと、日本だと東京から鹿児島、さらには沖縄の那覇あたりまで行く距離になる。
 乗せてくれたのはユーゴスラビア人のブラド。1947年生まれで、ぼくと同年。それだけに気があった。チャーターズタワーからキャサリンまで、4日間のブラドとの旅が始まった。
 目をキラキラと輝かせ、夢を見、夢を追いつづけている人に出会うと、無性にうれしくなるものだ。ブラドはそんな若者だ。
 彼はユーゴスラビアのザグレブで生まれた。ユーゴスラビアの貧困と不自由から逃れたくて、19歳のときに、オーストラリアに単身で移住した。バイタリティーに富んだブラドは言葉のハンデをものともせずに、いろいろなことに手をだしてきた。今は北部地方のビクトリア川を中心にして、ワニの密猟をやっているという。
「真夜中の川に行って、明かりひとつで川を下っていくんだ。ワニをみつけ、パーッとサーチライトで照らすと、ワニはすっかり動けなくなってしまう。そこを銃で狙い撃ちする」
 と、得意気に話す。1ヵ月で5000ドル(約200万円)も稼いだこともあるという。ブラドはその資金を元にして、オパールの原石を買い込んでいた。
「ワニの密猟はヤバイので、そろそろオパールに換えようと思っている。オーストラリア産のオパールを世界中に売るんだ」
 ブラドとはいろいろなことを話した。
 その中でもすごく印象に残っているのが、自由についてだった。
「人間にとって一番大事なものは自由だ。自由に自分の頭で考え、それを自由に行動に移せる、そんな自由だ。そうでなかったら、人間は人間とはいえないよ。ユーゴスラビアにいたときは自由がなかった。政治の批判はできないし、自分の将来の選択の自由もない。何を考えようと自由なのに、夢を抱く自由もなかった」
 それだからブラドはオーストラリアに来てよかったと言っている。しかしブラドはオーストラリア人に好意は持っていなかった。おそらく彼がオーストラリアにやってきたころは、英語も話せずに、オーストラリア人に冷たくされたと思い込んでいるからだろう。
「オーストラリア人といったって、もとはといえば、みんな自分と同じような移民。それなのに新しくやってきた移民をバカにして」
 ブラドの話からも、いろいろな民族の混ざり合ったオーストラリアの抱える悩みを見ることができる。オーストラリアはいろいろな民族の寄り合い所帯なので、ドイツ系はドイツ系で固まり、フランス系はフランス系で、イタリア系はイタリア系というように、民族ごとで固まっている。オーストラリア人の本家ともいえるイギリス人でさえ、イギリス国内の対立をそのままオーストラリアに持ち込み、イングランド人、スコットランド人、ウェールズ人、アイルランド人は、お互いに反目し合っている。
 幅の広いグレート・ディバイディング・レインジ(大分水嶺山脈)を越え、内陸部に入っていくと、乾燥した大地が果てしなく広がっている。車窓からは車にぶつかって死んだカンガルーをひんぱんに見かける。カンガルーは暗くなると、車のヘッドライトをめがけて飛び込んでくる。
 ブラドのオンボロ車にも、ルーバー(カンガルー・バー)がついている。ルー・バーというのは、車の前につける鉄製の頑丈なバーで、ぶつかたカンガルーをはね飛ばすようになっている。ルー・バーはカンガルーのためばかりでなく、牛と衝突したときも、車や運転者や同乗者のダメージを減らしてくれる。ブラドは買ったばかりの新車を牛にぶつけてしまい、車は大破、そこでやむなく100ドル(約4万円)でこのオンボロ車を買ったのだという。
 日が落ちても走りつづける。睡魔に襲われてくると、ブラドは道のわきで車を止めた。そしてシートを敷き、我々は降るような星空のもとで野宿した。

テーマ : ツーリング
ジャンル : 車・バイク

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